さびと言って最初に想像するのはどんなものでしょうか。一般的には鉄の赤さびや、銅でできた瓦の緑青などを思い浮かべる人が多いでしょう。しかし、さびには他にもさまざまな種類があるのです。
今回は、さびの基本的な知識として、さびはどのようにできるのか、そしてどんな種類や特徴があるのか、さびを防ぐためにはどんな方法があるのかなどをご紹介します。
さびはなぜできるの?
「さび」とは、金属が腐食することで作られる「腐食生成物」のことです。この腐食生成物にはその特徴によってさまざまな違いがあり、「色・成分・さびが発生する金属・発生するメカニズム」などによる分類がなされています。例えば、同じ「白さび」に分類される見た目が白いさびであっても、亜鉛に生じるさびとアルミニウムに生じるさびでは発生のメカニズムや成分が異なるため、色による分類は同じでも、金属やメカニズムによる分類では別のさびとなります。
さびの発生するメカニズムは非常に多岐にわたり、現在の科学では完全に解明されていない部分もありますが、主に以下のようなパターンがあります。
- 異種金属接触腐食、ガルバニック腐食
- 異なる金属を接触させておくと腐食が進み、さびが発生する
- 孔食(局部腐食)
- 表面に孔があいたように見える腐食
- 酸素濃淡腐食
- 酸素濃度の違いによって発生する腐食
- 水線腐食
- 水中と大気中の境界部分に見られる腐食
- 隙間腐食
- 金属間や、金属と非金属の間にできる腐食
- 粒界腐食
- 金属の結晶粒子と結晶粒子が接する境界が腐食するもので、ステンレスのさびでよく見られる
- 脱成分腐食(脱亜鉛腐食、黒鉛化腐食、脱アルミニウム腐食など)
- 合金などの金属のうち、特定の成分だけが腐食して溶け出していく
- 潰食、摩耗腐食(エロージョン・コロージョン)
- 水やその他の液体、泥水、スラリーなどの流体による機械的侵食と腐食が同時に進む腐食
- 微生物腐食
- 硫酸塩還元菌、硫黄酸化細菌、鉄酸化細菌、マンガン酸化細菌などのバクテリアによる腐食
- 迷走電流腐食(電解腐食の一種)
- 土中などに漏れた電流が原因で起こる腐食
その他、高温環境で起こる高温腐食、酸によって起こる水素発生型腐食、硫酸露点腐食、炭酸腐食など腐食の種類はさまざまです。この「腐食」によって溶け出した金属と酸素や水分が結びつくと「さび」が生じます。さびができる過程を「酸化」とも言い、金属は一般的に酸化された状態で自然界に存在していますので、さびとはいわば金属が自然な(安定した)状態に戻ろうとする現象とも言えます。
さびる金属として代表的なものに「鉄」がありますが、他にも銅やアルミニウム、亜鉛、ニッケルなど、ほとんどの金属は空気中でさびを生じます。常温の空気中ではさびない金属としてよく知られているのは銀やプラチナ、金などが挙げられます。逆に、リチウムやナトリウムなどは見ずともよく反応する「イオン化しやすい」金属です。
イオン化しやすさを「イオン化傾向」と呼んでいますが、この違いを利用した「めっき」という防腐技術があります。例えば、建築などで使われるトタン屋根は鉄版に亜鉛をめっきしたものですが、一部めっきが傷ついて鉄が露出しても、イオン化傾向の大きい亜鉛が先に溶け出すため、鉄がさびにくくなっているのです。
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さびの色で種類分けしたとき、特徴はどう違うの?
さびの色で種類分けすると、大きく以下の7種類に分けられます。主に発生する金属やその特徴について、詳しく見ていきましょう。
赤さびの特徴って?
赤さびは鉄、鉄鋼、銅、銅合金で見られるさびで、赤というより赤褐色に見えることの方が多いでしょう。一般的な炭素鋼における赤さびの場合、その成分は「水酸化第二鉄、オキシ水酸化鉄、酸化第二鉄」などが主です。鉄鋼の材料に発生する赤さびは材料をじわじわと侵食していきますので、さびが進行すると材料を劣化させ、やがてボロボロにしてしまいます。
ただし、赤さびがさらに変化して安定した保護被膜のように材料自体を守る「例外」的なさびも存在します。例えば、鉄鋼の中でも耐候性鋼の場合はもともと表面に耐食性のさび層を作り、それによってさびの進行を非常に遅くするという発想で作られた材料です。
最初は通常の赤さびなのですが、やがてこげ茶色や黒に近い褐色といったさびに変化すると、材料を守る被膜となります。赤さびのままでは被膜になりませんが、耐食性があり緻密で非晶質なさびの層は、本体となる鉄鋼の腐食を非常に低いレベルに抑えてくれるのです。
一方、銅に発生する赤さびの主成分は「酸化第一銅」ですが、このさびはもともと保護被膜として銅の本体を守る性質があります。さび自体が耐食性を持っているため、大気中のほか水分の多い場所や海水に対しても、腐食をある程度防ぐ効果があるのです。
青さびの特徴って?
青さびとは、主に銅に見られ「緑青」という名前でよく知られるさびの一種です。銅のさびとは一般的に酸化銅を指しますが、その上に形成されるのが緑青(青さび)です。緑青はもともと顔料の名称でしたが、転じて現在ではさびの名称として使われています。緑青にも耐食性がありますので、銅を腐食から守る保護被膜としても機能します。
緑青の成分は「塩基性硫酸銅(CuSO4・3Cu(OH)2)」(酸化第一銅が酸素や水、二酸化硫黄と反応したもの。ブロカンタイト)がよく見られますが、同じ色で同じ銅に見られる場合でも、さまざまな塩基性塩が混ざっていることもあります。例えば、塩基性炭酸銅・塩基性塩化銅・塩基性硝酸銅・塩基性酢酸銅なども緑青と呼ばれます。
緑さびの特徴って?
青さびとの違いや境界がわかりにくいですが、銅で見られる「緑青」は青さびと緑さびがまざったもので、銅に見られる緑さびは「パティナ」とも呼ばれます。鉄に見られる緑さびは、酸素の少ない場所で稀に見られるもので、空気に触れるとすぐに赤褐色の赤さびに変化します。
銅の緑さび(緑青)は生じたときの環境によってブロカンタイト、マラカイト、アズライト、アタカマイトなど複数の形になります。絵の具など塗料や顔料の材料としてもよく知られていますが、緑さびや青さびとしての緑青は生じるのに非常に時間がかかるものです。最初に赤褐色の酸化第一銅が生じたのち、周辺の酸素・水・亜硫酸ガス・炭酸・窒素酸化物などと反応して緑青が生じるためです。
50円玉や100円玉、500円玉などには銅とニッケルの合金(白銅、洋白)が使われます。これはニッケルがさびに強く耐食性の高い金属であるためで、他にもインコネル・ハステロイ・モネルメタルなどのニッケル合金として使われています。
このように銅とニッケルが混ざった硬貨がさびたとき、銅に由来する緑青なのか、ニッケル自体のさびなのかを見分けることは非常に難しいと言わざるを得ません。ニッケルを使った合金は一般的に高価な工業材料でもありますから、ニッケル自体のさびはそう見られるものではないでしょう。
黒さびの特徴って?
赤さびの項目でも少し触れられましたが、鉄に発生する黒さびは酸化物の被膜であり、内部の鉄本体への侵食を抑えて守る役割を持つことから、良性のさびとも呼ばれています。成分は主に「四酸化三鉄(マグネタイト)」で、さびの発生に水が関わらない「乾食」の一種(鉄を高温に加熱すると鉄の表面に現れる)で生じます。
また、銀で作られたスプーンや食器、ペンダントなどの銀製品が黒ずんでしまうことがありますが、これは銀の表面に生じた硫化銀や酸化銀であり、さびとして銀の内部まで侵食するものではありません。とは言っても見た目が悪くなってしまいますので、昨今の銀製品の多くはシルバーの銀白色の輝きを損なわないよう、表面にさらに耐食性に優れたロジウムメッキを施して黒ずみを防いだり、銀に別の元素を添加して合金化したものを使ったりしている場合もあります。
このような性質から、銀の黒ずみは厳密には腐食ではなく化学変化であり、腐食生成物である「さび(黒さび)」とは別物である、と言えるでしょう。
白さびの特徴って?
白さびが生じるのは主にアルミニウムや亜鉛です。アルミニウムに生じる白さびとは、表面に生じた酸化アルミニウムが「ベーマイト(Al2O3・H2O)」や「バイヤライト(Al2O3・3H2O)」、ギブサイトなどと呼ばれる水和酸化物に変化したものです。白さびの下には通常、酸化アルミニウムの薄い膜が作られているため、アルミ本体は守られていますが、この被膜が破壊されると本体も腐食していきます。
亜鉛に生じる白さびとは、亜鉛の表面に生じた水酸化亜鉛が二酸化炭素と反応して「塩基性炭酸亜鉛(2ZnCO3・3Zn(OH)2、ZnCO3・Zn(OH)6・H2O、ZnCO3・Zn(OH)2)」と言われており、これも本体の金属を守り腐食を防ぐ効果を発揮します。そのため、亜鉛の白さびも鉄の黒さびなどと同様「良性のさび」と言えるでしょう。
茶さびの特徴って?
鉄や鋼のさびは茶色っぽく見えることもあり、これらを総称して茶さびと呼ぶこともありますが、茶さびには大きく分けて2種類のタイプがあります。赤さびのように本体を腐食し続けて最終的には金属そのものを破壊し、風化させてしまうものと、黒さびのように金属表面に発生し、保護被膜となって内部の本体を守るものです。
前者の赤さびタイプのものは、「水酸化第二鉄」や「オキシ水酸化鉄」が代表的な成分で、色も明るい茶色が主体です。後者の茶さびは、耐候性鋼と呼ばれる塗装なしでも長期間の曝露に耐えられるよう開発された低合金鋼に見られることがあるもので、こげ茶色や濃い茶色をしているものです。
銅や銅合金に見られる茶さびは、キュプライトとも呼ばれる「酸化第一銅」が主成分で、亜酸化銅とも呼ばれています。赤褐色でどちらかと言えば赤さびに近い見た目ですが、明るい茶色にも見えることがあります。保護被膜として機能するさびで、侵食から銅本体を守る機能があり、この茶さびの上に緑青が作られるという特徴もあります。
黄さびの特徴って?
鉄鋼材料に見られることがあるさびで、塗装や塗膜処理に関わる鉄鋼製品に見られることが多いです。例えば、亜鉛めっき鋼板は「リン酸亜鉛処理工程」が必要ですが、この過程で黃さびが発生することがあります。黃さびの成分については諸説あり、「FeOOHのオキシ水酸化鉄」とされることもあれば、「塩基性水酸化第二鉄」にも見られるとする説もあります。
また、オキシ水酸化鉄のうち「アカガネイト」はかなり明るい色で、黄色と赤色が混ざったような色をしていることから、黃さびと呼ばれることもあります。同じ組成の「ゲーサイト」にも、黄色のさびが存在します。
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さびを防ぐにはどんな方法があるの?
さびを防ぐ、すなわち金属を腐食から守ることを「防食」と言います。今や家庭用品から産業用品まで広く使われる金属に「ステンレス鋼」がありますが、この「ステンレス」は「さび(stain)+ない(less)」という意味の言葉で、さびない金属の代表格と言えます。
鉄を50%以上含むステンレスがさびないのは、鉄の他にクロム(Cr)を10.5%以上含んでいて、金属の表面でクロムが「不動態被膜」を形成するからです。このように、合金にすることでさびを防ぐ方法もあります。これと似た防食方法に、表面の温度・電位・周囲の化学物質などの環境を適切にコントロールして防食さびを生じさせるというものがあります。
環境をコントロールしてさびそのものを生じにくくする防食方法として「環境制御」という方法もあります。pHが低い酸性の環境ではさびやすいですが、pHの高いアルカリ性の環境ではさびにくくなります。このため、強アルカリ性のコンクリートの中に位置する鉄筋はさびにくくなっているのです。
他にも、公園の遊具や道路のガードレールなど、塗料で金属の表面を覆うことで防食する方法もあります。この方法では防食と同時にさまざまな色を金属構造物に着色できることから、景観の向上にもつながっています。このように表面をコーティングするタイプの防食を「被膜防食」と呼びます。塗装以外にも、異なる金属を張り合わせた「クラッド材」、ガラス質のセラミックスで覆った「ほうろう」なども被膜防食の一種です。
塗料ではなく表面に別の金属を成膜し、先に表面の金属が腐食されることで本体の腐食を防ぐ、あるいは耐食性の高い金属の膜によって本体の腐食を防ぐ(スズやクロムなど)という「めっき」も防食の一つです。めっきには防食のほか、装飾や機能追加という用途もあります。
このほか、腐食を抑制する化学薬品に浸したり化学薬品を塗ったりする「薬品抑制」、金属が腐食しない電位を保って腐食を防ぐ「電気防食」などの方法もあります。このように、使用する用途や場所、材質などによってさまざまな防食方法が使い分けられているのです。
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おわりに:さびは色やその成分、生じる金属やメカニズムで分類される
さびとは、金属が腐食することで作られる「腐食生成物」のことです。代表的なものには鉄の赤さび、銅の緑青などがありますが、その発生過程や成分、特徴、色にはさまざまな種類があります。
例えば、鉄の赤さびは内部の鉄を破壊し、風化させてしまうさびですが、銅の緑青は表面に被膜を作り、内部の銅を守る役割をします。こうした被膜は内部をさびにくくする「防食」としても使われることがあります。
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