食中毒の原因にはさまざまなものが考えられますが、中には魚介類に付着している細菌やウイルス、寄生虫によって引き起こされる食中毒もあります。例えば「牡蠣に当たった」などはよく聞かれる食中毒の例ですが、他にはどんな食中毒があるのでしょうか。
魚介類によって引き起こされる食中毒の種類やその予防方法、釣った魚介類を食べるときに食中毒を起こさない方法についてご紹介します。
魚介類の食中毒にはどんな種類があるの?
魚介類で引き起こされる食中毒には、細菌やウイルスによるもの、自然毒によるもの(貝類)、寄生虫によるものがあります。それぞれの食中毒について、詳しく見ていきましょう。
細菌やウイルスによる魚介類の食中毒にはどんな種類がある?
細菌やウイルスによる魚介類の食中毒として、最もよく知られているのは「腸炎ビブリオ」という細菌によるものです。海洋性の魚介類のエラや表面、貝類の腸管などに付着し、魚介類を調理したまな板や調理器具、手指から二次汚染を引き起こすこともあります。
腸炎ビブリオはごく沿岸の海水中や泥土に生息していて、塩分や高温を好みます。他の細菌と比べて増殖速度が速いため、条件が整えば1個の細菌から約2時間で食中毒を発症させられるほどの量にまで増殖しますので、水温が19℃を超える6〜9月ごろの夏場は特に注意が必要です。
近年、生食用の魚介類加工品が主な原因となり、夏に集中的に腸炎ビブリオを原因とする食中毒事故が発生しています。このため、平成13年6月7日付で「食品衛生法施行規則及び食品、添加物等の規格基準」の一部改正が行われ、生食用の鮮魚介類などについて表示基準や成分規格、加工基準及び保存基準が設定されました。
他にも、以下のような病原菌が食中毒を引き起こすことがあります。
病原菌名 | 感染源 | 感染経路 |
---|---|---|
病原大腸菌(O-157など) | 人間や動物の腸管内に常在排泄物として存在
食品・土壌や下水道などに生息している |
排泄物由来で、トイレとヒトを経由して食品を汚染する
汚染された水から感染することもある |
サルモネラ菌 | 鶏や豚、牛などの家畜、ネズミ、昆虫などが保菌 | 水産物は、主にネズミや昆虫から食品が汚染される |
黄色ブドウ球菌 | 人間や動物の皮膚や鼻腔に存在する常在菌 | 手指に化膿創(傷)がある者が食品に触れると汚染される |
他にも、細菌自身が感染によって食中毒を引き起こすわけではありませんが、過剰に摂取すると食中毒を引き起こす「ヒスタミン」や「アグマチン」などのアミン類を生産する「ヒスタミン生産菌」という細菌もあります。このヒスタミン生産菌は魚体中のタンパク質を分解し、アミン類を産生してしまうため、高濃度に蓄積してしまうのです。
マグロ・サンマ・サバ・イワシなどの赤身魚で起こりやすく、見た目の変化や悪臭などを伴わないことから、食べる前に気づくことは非常に難しいのが特徴です。アミン類は一度産生されると加熱調理してもなくならないため、ヒスタミン生産菌によってアミン類を生産されてしまうと、食中毒を防ぐ手段がありません。
貝類でよく知られているのは、ノロウイルスによる食中毒です。ノロウイルスは牡蠣などの二枚貝の中腸腺(内臓)に生息し、吐き気や嘔吐、腹痛、下痢、発熱などの症状を引き起こします。潜伏期間は24〜48時間で、一般的に症状が出てから3日以内で軽快し、予後は良好な食中毒です。ただし、発症当日に症状が激しく出る場合が多いですから、注意しましょう。
ノロウイルスの汚染経路は、冬季にヒトの体内から糞便中に排泄されたノロウイルスが下水を通じて海へと流出し、貝の中腸腺に蓄積されるというものです。感染した人の吐瀉物や糞便を触った手指から二次汚染が拡大することが多いため、家族などはもちろん、ペットなどへの二次感染にも注意が必要です。
自然毒による魚介類の食中毒にはどんな種類がある?
自然毒による魚介類の食中毒としては、貝類が持つ「貝毒」や「ネオスルガトキシン、プルスルガトキシン」が引き起こすものが主です。
- 貝毒(麻痺性貝毒、下痢性貝毒)
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- カキ、ホタテ、アサリ、ムラサキイガイ、アカガイなどの二枚貝
- 症状は悪寒・嘔吐・下痢・腹痛・唇や手足のしびれ・呼吸麻痺など
- 有毒部位は中腸腺で、貝が摂取するプランクトンが持つ自然毒によって毒化される
- 加熱処理でも分解されにくく、麻痺性貝毒にはフグ毒(テトロドトキシン)と同程度の毒性を持つものも
- ネオスルガトキシン、プルスルガトキシン
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- バイガイ、ツブ(ツブガイ)に存在し、有毒部位はバイガイの中腸腺、ツブガイの唾液腺
- バイガイではめまい・しびれ・痙攣・言語障害などが起こり、重傷者は顔面蒼白や呼吸困難に陥ることも
- ツブガイでは頭痛・めまい・視覚症状・嘔吐などが起こる
寄生虫による魚介類の食中毒にはどんな種類がある?
魚介類には寄生虫が存在していることもあり、それが食中毒の原因となることもあります。主に以下の3種類の寄生虫に注意しましょう。
- アニサキス
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- 魚介類の内臓に寄生し、鮮度が落ちると内臓から筋肉に移動する
- 虫体は肉眼で見える大きさで、熱に弱いが低温には強い
- 生で食べると激しい腹痛や吐き気などを伴い、最悪の場合は消化管壁を貫通してしまうこともある
- クドア・セプテンプンクタータ
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- ヒラメの筋肉に寄生する寄生虫で、食中毒は9〜10月に多発する傾向がある
- アニサキスなどとは異なり、虫体を目視できない
- 食後数時間で一過性の嘔吐や下痢を発症するが、症状は軽度ですぐに回復する
- 旋尾線虫
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- ホタルイカの消化管に寄生していて、ホタルイカ漁が解禁となる3〜8月、特に4〜5月に多く発生する
- 虫体は0.8〜2mm未満程度で、透明で白いため目視しにくい
- 数時間〜2日後から腹部膨満感を生じ、2〜10日間の腹痛や嘔吐を引き起こす「急性腹症型」、接触後2週間前後で発症し、腹部から始まり数mm幅の赤い線状の皮疹が1日2〜7cm蛇行しながら伸びる(旋尾線虫が真皮の浅い部分を移動している)「皮膚爬行症型」などが見られる
- ホタルイカを生で内蔵ごと食べる「踊り食い」などが主な原因と考えられる
魚介類の食中毒はどうやって予防すればいい?
では、上記のようなさまざまな食中毒をどのように予防すれば良いのでしょうか。細菌やウイルス、自然毒、寄生虫、そして全体的な食中毒予防について分けて見ていきましょう。
魚介類の細菌やウイルスによる食中毒を予防するには?
細菌やウイルスによる食中毒は、以下のような方法で予防できます。
- 腸炎ビブリオ
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- 低温(4℃以下)で保存する
- 水道水(真水)かつ流水でよく洗い流す
- 加熱調理する場合、中心温度65℃で1分以上加熱する
- 病原性大腸菌(O-157など)
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- トイレ後の手洗い、うがいを徹底する
- 加熱調理する場合、中心温度75℃で1分以上加熱する
- 低温(10℃以下)で保存する
- サルモネラ菌
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- ネズミやハエ、ゴキブリなどを駆除する
- 加熱調理する場合、中心温度75℃で1分以上加熱する
- 黄色ブドウ球菌
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- 手指に化膿がある人は、調理を行ったり食材を直接触ったりしない
- 低温(5℃以下)で保存する
- ノロウイルス
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- 牡蠣などの二枚貝は生食を避け、中心温度85〜90℃で90秒以上加熱する
- 清潔な使い捨て手袋を使う
- 手洗いうがいを徹底し、検便などの健康管理を行う
- ヒスタミン産生菌によるヒスタミン(アミン類)食中毒
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- 加工品を含む赤身魚を常温で放置しない
- 冷蔵であっても、長期間の保存にならないよう注意する
- 冷凍した赤身魚の解凍は、冷蔵庫で行う
- 冷凍と解凍の繰り返しを避ける
腸炎ビブリオは4℃以下で活動停止しますので、できるだけ4℃以下で保存するのが良いでしょう。その他の細菌も10℃以下で増殖が抑えられますので、まず魚を買ってきたらすぐに冷蔵庫に入れることを習慣づけましょう。また、調理前に手洗い・うがいを行うこと、生の食材に触った後は手洗いをすることを徹底しましょう。
魚介類の自然毒による食中毒を予防するには?
自然毒による食中毒は、以下のような方法で予防できます。
- 貝毒(麻酔性貝毒、下痢性貝毒)
- 定期的貝毒検査の実施、出荷規制
- ネオスルガトキシン、プルスルガトキシン
- 内臓を食べない
貝毒は加熱でも分解しにくく、貝が摂取するプランクトンによって引き起こされることから、貝毒を持った貝を家庭に持ち帰ってしまってしまうと防ぐ方法がありません。ですから、周辺の漁業協同組合や行政機関に問い合わせたり、普段からテレビや新聞などの情報に注意したりしておくことが重要です。
ネオスルガトキシンやプルスルガトキシンは、内臓を食べなければ食中毒を引き起こしにくいですから、確実に内臓を除去するよう気をつけましょう。
魚介類の寄生虫による食中毒を予防するには?
寄生虫による食中毒は、以下の方法で予防できます。
- アニサキス
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- 新鮮な魚介類を選び、速やかに内臓を取り除く
- 60℃で1分間、あるいは70℃以上で加熱する
- -20℃で24時間以上冷凍する
- 魚の内臓を生で食べない(提供しない)
- 目視でアニサキスの幼虫がいないか確認する
- クドア・セプテンプンクタータ
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- -20℃で4時間以上冷凍する
- 中心温度75℃で5分間以上加熱する
- 検査で「クドア陰性」と確認されたヒラメを食べる
- 旋尾線虫
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- 沸騰水中で30秒以上浸ける、または中心温度が60℃以上で加熱する
- -30℃で4日間以上冷凍する
アニサキスは一般的な料理で使う程度の塩・わさび・酢などの量や濃度では死滅しませんので、見つけたら除去することや、しっかり加熱して死滅させることが重要です。
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魚介類の食中毒予防のために全体的に注意することは?
最後に、魚介類の食中毒予防のため、買ってから食べるまでの全体的な注意点をご紹介します。
買うときのポイント
- 温度管理のしっかりしたお店で、鮮度の良い魚を購入する
- 体色が鮮やかでツヤがあり、目が黒く澄んでいるものが新鮮
- 切り身の場合、血合いが鮮やかな赤色で全体的にハリがあるもの
- 冷凍されているもので、ラップの内側に霜が見える場合、保管中に溶けかけてしまったものなので注意する
- 包装された加工品の場合、賞味期限の表示を確認
魚介類は買い物の最後にかごに入れ、購入後はトレイに溜まったドリップ(体液)が他の商品を汚染しないよう、包装を二重にしましょう。寄り道せずまっすぐ帰り、帰宅後はすぐに4℃以下の冷蔵庫に入れるか、冷凍庫に入れるのが安心です。このとき、ドリップが漏れていないかどうかも必ず確認しましょう。
下ごしらえのポイント
下ごしらえでは、魚介類のエラや表面についた菌やウイルスをしっかり洗い流し、水分が溜まらないようにして速やかに冷蔵・冷凍します。
- 魚は頭か尾を持つ(腹を持つと体温で劣化が進む)
- 水道水の流水で魚のエラや表面をよく洗い、菌を洗い流す(シンクの汚染に注意)
- ウロコ・エラ・ワタ(内臓)を取り除き、よく洗ってキッチンタオルなどで水分を軽く拭き取る
- 魚から出る水分が溜まらないよう、網すのこを敷いたバットなどに入れ、ラップで密封したのち冷蔵庫で保管する
- 冷凍する場合は、薄い切り身にして1枚ずつラップでくるみ、冷凍にかかる時間を短くする
- ビニール袋に入れ、空気を抜いてから冷凍する
調理時の二次汚染を防ぐポイント
他の食品に細菌やウイルスがつかないよう、調理時は以下のようなことに注意して二次汚染を防ぎましょう。
- 包丁やまな板は肉・魚専用のものと、その他用のものを分ける
- 調理中に時間があく場合、短時間でも魚介類は冷蔵庫に保存する(他の食品を汚染しないよう注意)
- 加熱する料理は、中心部までしっかり火を通す
- 調理後は手指の洗浄や消毒を徹底し、必要に応じて使い捨て手袋をつける
- 使った調理器具は十分に洗浄し、80℃以上の熱湯や塩素系殺菌剤などで消毒する
食べるときのポイント
- 生食用のものは食べる直前まで冷蔵庫で保管し、当日中に食べきる
- もし残った場合は必ず加熱し、生で保管しない
- 加熱した料理が残った場合は冷蔵保存し、食べる前に再加熱する
- 残り物を食べるときは、少しでも変だと感じたら思いきって捨てる
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釣った魚で食中毒にならないようにするためには?
魚を食べるのは必ずしもスーパーで購入したものだけとは限らず、釣りが趣味の方などは自分で釣った魚を食べたいと思うこともあるでしょう。そこで、釣った魚で細菌・ウイルス・寄生虫などの食中毒にかからないための予防法をご紹介します。
まず、釣った魚はクーラーボックスに入れ、氷を入れるなどして冷やして持ち帰り、真水で洗って調理します。その後、使ったまな板や包丁を持ち帰りに使ったクーラーボックスに入れ、まとめて漂白剤で除菌する、という手順です。もし、時間が経ってから調理する場合は切り身を冷蔵庫に入れて保管しましょう。
また、それぞれの細菌や寄生虫による食中毒を防ぐには、以下のような方法が有効です。
釣った魚の腸炎ビブリオによる食中毒を防ぐには?
腸炎ビブリオの活動を止めるためには、4℃以下の環境で保存しておくことが重要です。そのため、クーラーボックスに海水と凍らせたペットボトルを数本入れておきましょう。手を水に浸けると指先が痛いと感じるくらいに冷やせれば、外気温が真夏でもクーラーボックス内は問題ありません。
また、調理時に真水で洗ったりよく加熱したりするというのはスーパーで買った魚と同じですが、生食するなら新鮮なうちに(菌が増えないうちに)サッと食べてしまうことも重要です。
釣った魚のアニサキスによる食中毒を防ぐには?
アニサキスは長さ2〜3cm、幅0.5〜1mmくらいの寄生虫なので、目視で確認することができます。下ごしらえや調理時に渦巻状や白い斑点のある箇所、糸状の物体がくっついていたらアニサキスと思って良いでしょう。ただし、イカなどはアニサキスと同じ半透明の白色をしているため、見つけにくいので十分に注意が必要です。
アニサキスは魚介類の内臓に寄生していますが、魚介類の死後、時間が経つにつれて身の方に移動してきます。ですから、釣った魚はすぐ内臓処理をすれば、かなり効果的なアニサキス予防になるでしょう。内臓処理をすることで新鮮さを保ち、生臭さも抑えられるため、血抜きや神経締めと一緒に内臓処理をしてしまいましょう。
アニサキスの対処法として、よく噛んだり薄く細かく切ったりする方法がよく言われていますが、これはアニサキスの身体に傷がつくとすぐ死滅することによるもので、あまり確実な方法ではありません。また、酢漬けや塩漬けなどではアニサキスを死滅させられません。ですから、魚にアニサキスがついているかもしれないと疑われる場合は、予防法でご紹介したように十分な加熱か冷凍を行いましょう。
釣った魚のヒスタミンによる食中毒を防ぐには?
ヒスタミンによる食中毒は、ヒスタミン産生菌が活動してヒスタミンが増えてしまうことで起こります。まずは、ヒスタミンのもとになる「ヒスチジン」は血液中に多いため、エラや内臓を取り除くとともに、血抜きをしっかり行いましょう。また、菌の活動を抑えるため、腸炎ビブリオ対策と同様、クーラーボックスに海水と凍らせたペットボトルを入れて低温で持ち帰りましょう。持ち帰ったら手早く調理して早めに食べ、長期保存はしないことも重要です。
おわりに:魚介類の食中毒を防ぐために、冷蔵保存と加熱処理を徹底しよう
魚介類の食中毒には腸炎ビブリオや病原性大腸菌、ノロウイルス、貝毒や寄生虫などのさまざまな要因がありますが、基本的には細菌の増殖を抑えるための冷蔵・冷凍保存と、調理時の十分な加熱処理で多くの食中毒に対処できます。
刺身などの生食をしたい場合は、できるだけ新鮮な魚介類を買い、持ち帰ったらただちに冷蔵保存し、その日のうちに食べてしまいましょう。釣った魚を食べるなら、内臓処理や血抜きなどの下処理も重要です。
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