カビは人類にとって非常に身近な細菌の一種で、日常生活で特によく見るものには「黒カビ」「青カビ」などの特徴的な色を持つカビのほか、「ススカビ」「コウジカビ」などその性質で呼ばれているカビがあります。
今回は、中でも「コウジカビ」と呼ばれるアスペルギルスについてお話します。アスペルギルスは病気の原因になることもありますので、予防法も知っておきましょう。
アスペルギルスとは?
アスペルギルスとは、屋内外どこにでも生息しているカビ菌の一種であり、です。代表的なものに「アスペルギルス・オリゼー(A. oryzae)」、すなわち「ニホンコウジカビ」がいて、日本酒や味噌・醤油・鰹節などの発酵に古くから活用されてきました。味噌や醤油の発酵には、「アスペルギルス・ソーエ(A. sojae)」という別種ではありますが近い種のコウジカビも活用されています。
また、「アスペルギルス・アワモリ(A. awamoriまたはA. luchuensis)」という種類は、名前の通り沖縄で泡盛を作るときに使われているコウジカビです。このようにアスペルギルス属のコウジカビは我々の食生活を豊かにしてくれている一方で、「アスペルギルス・フミガーツス(A. fumigatus)」のように病原体となる種類も存在しています。
病原体となる「アスペルギルス・フミガーツス」は、感染すると肺や気管支で増殖し、呼吸困難を引き起こす「アスペルギルス症」の原因となります。まれに死に至ることもあり、決して軽視はできません。アスペルギルス属は土壌や空中はもちろん、植物にくっついていたり、室内のチリの中に存在していたりとどこにでも存在し、季節を問わずいつでも繁殖して言います。
黒カビなどは多湿の環境を好むため、梅雨〜夏に繁殖しやすいとされますが、アスペルギルス属は40〜50℃の高温や湿度が50%を切るような乾燥した環境でも死滅せず活動できます。人間にアスペルギルス症を引き起こすのは「アスペルギルス・フミガーツス」のほか、「アスペルギルス・フラブス(A. flavus)」「アスペルギルス・テレウス(A. terreus)」などがあります。
アスペルギルス症の原因となるのは圧倒的に「アスペルギルス・フミガーツス」が多く、約90%を占めます。「アスペルギルス・フミガーツス」は特に肺の侵襲性アスペルギルス症の病原体としてよく知られていますが、肺以外の侵襲性アスペルギルス症の病原体としては「アスペルギルス・フラブス」がよく知られています。
アスペルギルスが引き起こすのはどんな病気?
前述のように、アスペルギルス属の病原体は「アスペルギルス症」と呼ばれる疾患を引き起こします。最も注意すべきなのは「急性肺アスペルギルス症」と呼ばれるもので、病原体となるアスペルギルス(多くはアスペルギルス・フミガーツス)の胞子を吸い込んでしまって感染・発症するものです。
アスペルギルスは空気中にも多く存在していますが、免疫機能が正常な健康な人に対して感染症を引き起こすことはほとんどありません。急性肺アスペルギルス症の発症に注意が必要なのは抗がん剤治療を行っている人や臓器移植を受けて免疫抑制剤などを使っている人、白血病やHIV・糖尿病を発症している人で、いずれも著しく免疫機能が低下している人です。
急性肺アスペルギルス症では、鼻や口から入ったアスペルギルスが肺に到達してそこで急激に増殖したもので、肺が線維化して機能しなくなり、呼吸不全を引き起こすものです。治療は困難を極め、死亡率が約50%にものぼる非常に危険な疾患です。主な症状は咳・喀痰・喘鳴・胸痛・呼吸困難などですが、ごく軽度の場合は症状が出ないこともあります。
急性ではないものの、アスペルギルスが徐々に肺で増殖し、慢性的に呼吸を妨げるようになったものが「慢性肺アスペルギルス症」です。こちらは何らかの呼吸器関連疾患(気管支拡張症、間質性肺炎、慢性閉塞性肺疾患(COPD)など)が基礎疾患としてある場合、あるいは過去に結核などの呼吸器疾患の既往歴があるという場合に感染リスクが高くなります。特に、喫煙習慣のある人は無自覚にCOPDを発症していることがありますので、注意が必要です。
また、増殖したアスペルギルスが肺の空洞に球状の塊をつくってしまう「肺アスペルギローマ」になることがあり、喀血などの症状が出ることもあります。さらに、免疫抑制剤やステロイドなどの薬剤を使っている場合、アスペルギルスが血管内に侵入してさまざまな臓器を侵食してしまう「侵襲性アスペルギルス症」へと進行する可能性もあります。
この場合、副鼻腔炎や外耳道炎、腎不全や肝不全を起こしたりする場合もあるとされています。侵襲性アスペルギルス症にまで進行する例は多くありませんが、かかると急激に進行して発熱・悪寒のほか、急激に血圧が低下するショック症状や、意識が朦朧として錯乱してしまう「せん妄」を引き起こし、最悪の場合生命に関わることもあります。
アスペルギルスはアレルギーを引き起こすこともある?
アスペルギルスが引き起こすのは感染症だけではなく、アスペルギルスがアレルゲンとなるアレルギー反応もあります。この場合は「アレルギー性気管支肺アスペルギルス症」となり、早めに発見できればステロイド薬と抗真菌薬の併用などで通常の喘息程度に症状を抑えることが可能です。
しかし、発見が遅れると気管支拡張症の悪化や肺の線維化など、取り返しのつかない状態になってしまい、日常生活においても酸素吸入が必要になるなどの事態を引き起こすこともあります。呼吸器疾患を持っている人や、過去に既往歴がある人は十分注意が必要です。
関連記事:ハウスダストにはどんな害がある?おすすめの対処法は?
アスペルギルス症を予防するにはどうすればいい?
アスペルギルス症は、感染症もアレルギー症状もアスペルギルスが体内に入ることで起こります。アスペルギルスは空気中や土壌中などさまざまな環境に存在していますので、完全に避けることは難しいですが、接触する数を減らす対策を取ることが重要です。特に免疫抑制剤や白血病・HIVなどで免疫機能が極端に低下している場合、埃っぽい環境を避ける必要があります。
例えば、建築現場などの埃っぽい環境では、N-95マスクのようなアスペルギルスの胞子が通過できないマスクを着用しましょう。ガーデニングのような土壌との接触を避けたり、HEPAフィルターを用いて空気をキレイにしたりするのも効果的です。もし、どうしても土壌に接触する必要があるなど、アスペルギルスに接触する可能性が高いときは、感染予防のため抗真菌薬を投与することも視野に入れましょう。
また、室内では特にエアコンに気をつける必要があります。エアコンの内部には結露ができやすく、アスペルギルスだけでなくさまざまなカビの温床になってしまう可能性が高いからです。フィルターや内部で増殖したカビの胞子は、エアコンから吹き出される空気に乗って部屋中に撒き散らされます。エアコンを10分かけると約1,000個の胞子が吹き出されるとされ、これは通常空気中に存在する胞子(2〜100個程度)の約10倍の量です。
そこで、エアコンで冷房を使った後には送風機能などでエアコン内部をよく乾燥させたり、フィルターの掃除をこまめに行ったりして、カビが増殖するのを防ぎましょう。フィルター掃除の目安は2週間に1回程度で構いません。冷房後の送風はできれば毎回行いたいところですが、難しい場合は2〜3日に1回でも良いでしょう。もし、吹出し口から見てもわかるほど内部にカビがはえてしまっている場合は、専門の業者に依頼して洗浄してもらいましょう。
カビは自然界に多く存在していますので、空気中からカビをゼロにすることは非常に難しいですが、カビをできるだけ減らし、接触する数を減らすことは重要です。特に、カビが増殖しやすい条件には「20〜30℃の温度」「60〜70%以上の湿度」「ホコリやゴミなど、カビの栄養分」の3つがあります。適宜換気して湿度を下げたり、こまめに掃除を行ってホコリやゴミを取り除いたりすることを心がけましょう。
関連記事:【病気の原因】「エアコンのカビ」を自分で掃除する方法とは?
おわりに:アスペルギルスは有益な種類もいるが、感染症を引き起こす種類もいる
「アスペルギルス属」といえば、有名な「アスペルギルス・オリゼー」に代表されるように、日本でも味噌や醤油などの発酵食品に昔から使われ、「コウジカビ」の愛称で親しまれてきました。
しかし一方で、同じアスペルギルス属でも「アスペルギルス・フミガーツス」は「アスペルギルス症」という感染症やアレルギーを引き起こします。予防するためには、カビが繁殖しにくいよう、湿度のコントロールやこまめな掃除を心がけましょう。
コメント