世界最初の抗生物質である「ペニシリン」という名前を知っている人も多いでしょう。このペニシリンがコンタミ(汚染)によって発見されたことも有名で、たまたま培地にはえてしまった青カビが産生したのがペニシリンです。
このように、人類にとって有益なイメージの強い青カビですが、同じ青カビでも人体に害のある種類もいます。今回は、青カビの特徴やはえやすい場所についてご紹介しましょう。
青カビ(ペニシリウム)ってどんなカビなの?
青カビとは正式名称ではなく、その見た目からつけられた俗称です。正式名称は「ペニシリウム属」と言い、顕微鏡で見ると形がブラシのように見えることからラテン語の「ペニシリ(ブラシという意味)」という言葉をとってつけられました。有名な世界初の抗生物質「ペニシリン」を産生する種類がいることでもよく知られています。
専門家によって分類に関する意見が異なるものもいますが、ペニシリウム属は一般的に約300種類とされ、中でも代表的なのは以下の3種類です。
- ペニシリウム・シトリナム(P. citrinum)
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- 黄変米(カビによって黄色く変色したお米)の原因菌としてよく知られる
- 東京都によれば、ハト麦・そば粉・ライ麦粉などから検出されたこともある
- シトリニンというカビ毒を作るが、カビ毒の検出例は非常に少ない
- ペニシリウム・エクスパンザム(P. expansum)
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- りんご青カビ病の原因菌で、パツリンというカビ毒を作る
- 国内ではりんごジュースにパツリンの規制(低減指導)が設けられていて、基準値は0.05ppm(0.000001%)
- ペニシリウム・イスランジカム(P. islandicum)
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- 黄変米の原因菌の一つで、肝障害を引き起こすイスランジトキシンというカビ毒を作る
他にも、抗生物質であるペニシリンを産生する「ペニシリウム・ノタトゥム(P. natatum)」や、カマンベールチーズの熟成に使われる「ペニシリウム・カマンベルチ(P. camamberti)」なども青カビ(ペニシリウム属)の仲間です。
青カビはどんなところにはえやすいの?
青カビはミカンやレモンなどの柑橘類、リンゴなどの果物類、餅やパンなどの穀物類によく発生するほか、魚肉練り製品やサラミソーセージなどの加工食品にもよく発生します。ホコリはもちろん、靴に発生することもあり、生活環境や自然環境の中に広く生息しているカビです。建物内では湿度の高い浴室やクローゼット、下駄箱などによく発生します。
青カビはもともと土や草、植物などについているカビで、それが自然の風などによって空気中に舞い、世界中の至るところへ飛んでいきます。全世界に普遍的に多いですが、特に温帯な地域に多い傾向があり、室内では壁面や塗装面、家具や押入れ、畳などにはえることもあります。また、洪水などで被害を受け、湿気がこもってしまった家には大量に発生することがあります。
空気中の青カビは黒カビと同じくらいたくさんいて、黒カビよりも大きさが小さいことから長く漂っている傾向にあります。黒カビの胞子がだいたい4〜8μmなのに対し、青カビの胞子はだいたい3〜6μmです。そのため、青カビの胞子は1m落下するのに120分くらいかかります。
青カビが害になることもあるの?
最初にご紹介したように、抗生物質であるペニシリンを産生したり、カマンベールチーズの熟成に使ったりと、青カビは人間にとって有益なイメージの多いカビです。しかし、青カビは有益なばかりではなく、中には人体や植物、食品にとって有害な種類もいます。その代表的なものが「黄変米」の原因となる「ペニシリウム・シトリナム」と「ペニシリウム・イスランジカム」です。
- ペニシリウム・シトリナム(P. citrinum)
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- シトリニンというカビ毒を作り、腎障害(腎細尿管上皮変性)を引き起こす
- ペニシリウム・イスランジカム(P. islandicum)
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- イスランジトキシン・ルテオスカイリン・シクロクロロチンという3つのカビ毒を作る
- イスランジトキシン:肝障害を引き起こす
- ルテオスカイリン:水に溶けないキレイなオレンジ色で、肝臓がんを引き起こすリスクがある
- シクロクロロチン:ルテオスカイリンの約10倍の肝毒性を持つ
ペニシリウム・シトリナムの作るカビ毒「シトリニン」はあまり食材などから検出されていませんが、アスペルギルス(コウジカビ)にもシトリニンを作る種類のカビがいて、食品添加物として使われています。紅麹色素と書いてあるものがそれですが、シトリニンの添加は0.2μg/g以下と規制されています。
ペニシリウム・イスランジカムは昔、1950年代ごろに輸入米の汚染が大きな社会問題となったカビで、ルテオスカイリン・シクロクロロチン・イスランジトキシンの3種類のカビ毒を産生し、これらがいずれも肝障害を引き起こす可能性があります。現在は米の保存状態がかなり改善されたため、国産米からその毒素が検出されることはまずありません。
青カビは果物類にも有害となることがあり、その代表的なものが「りんご青カビ病」と「柑橘(かんきつ)青カビ病」です。
- りんご青カビ病
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- 「ペニシリウム・エクスパンザム(P. expansum)」が原因で、輸送中や貯蔵中のりんごを腐敗させる
- パツリンというカビ毒を作るが、ヒトが吸引しても短時間で解毒されるため、発がん性は低い。これまでもヒトへの被害の報告はない
- マウスやイヌなどの動物には致死毒性があるため、十分注意する
- 日本では2004年にカビ毒として、りんごジュース内に50μg/kg以下と規制された
- 柑橘青カビ病
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- 「ペニシリウム・イタリカム(P. italicum)」が原因で、貯蔵中の果実に発生する(収穫のときなどに果実にキズがついて発生する)
「りんご青カビ病」も「柑橘青カビ病」も、原因菌は異なりますが発生原因や経過は非常に似ていて、まず果実の表面が湿気を帯びたようになり、次に白い綿のようなカビがはえ、その後、中心部から徐々に青灰緑色になっていきます。カビは粒状のイボ状物となって散在し、発病した果実は独特の悪臭を放ちます。
青カビが感染症やアレルギーを引き起こすことはある?
青カビは、例としては少ないものの、感染症やアレルギーを引き起こすこともあります。
- 真菌感染症:マルネッフェイ型ペニシリウム症
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- 輸入感染症であり、後天性免疫不全症候群(AIDS)などの免疫が極端に低下している人が発症する
- 免疫機能が正常な人ではほとんど発症しないと考えられる
- 国内での感染例は少ないが、腹痛や発熱・皮疹などが症状の一例として挙げられる
- アレルギー:アレルギー性気管支肺アスペルギルス症
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- カビの胞子を吸い込むことで起こる、カビアレルギーの一種
- くすんだ緑色や褐色の痰を伴う咳、喀血などの症状が見られる
真菌感染症としてはマルネッフェイ型ペニシリウム症という疾患があり、これは今日では「タラロマイセス・マルネッフェイ(T. marneffei)」と呼ばれている真菌がかつては「ペニシリウム・マルネッフェイ(P. marneffei)」と呼ばれ、ペニシリウム属に分類されていたことによります。基本的には輸入感染症であり、日本国内での症例は多くありませんが、HIVなどの免疫力を低下させる基礎疾患があった場合に発症することが多いとわかっています。
アレルギー性気管支肺アスペルギルス症を引き起こすのは、一般的には名前の通り「アスペルギルス・フミガートス(A. fumigatus)」と呼ばれる真菌ですが、喘息や嚢胞性線維症などの基礎疾患がない状態で、ペニシリウム属も全く同じような症候群を引き起こすことがあります。重症例では発熱や頭痛、食欲不振などの全身症状を引き起こすこともあります。
おわりに:青カビは有益な種類もあれば、人体に有害な種類もある
青カビと言えばペニシリン、ブルーチーズなど、人間にとって有益なイメージが強いですが、一方で肝障害や腎障害を引き起こす「カビ毒」を作る種類もあります。特に、食品にはえた青カビは間違って食べてしまわないよう気をつけましょう。
青カビの害は主にカビが作る「カビ毒」によるものですが、ごくまれに真菌感染症やアレルギーを引き起こすこともあります。免疫力が低下しているときは、特に注意が必要です。
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