浴室やキッチン、洗面所など、水場の掃除を怠っていると、いつの間にか黒い点々としたしみが現れることがあります。通称「黒カビ」と呼ばれるこれらのカビは、除去しても除去してもはえてきてしまうやっかいな性質もあってよく知られています。
今回は、そんな黒カビの正体とはえやすい場所、考えられる健康被害などについてご紹介します。黒カビについて正しく知り、健康被害を予防しましょう。
黒カビ(クラドスポリウム)ってどんなカビなの?
家庭で最もよく見かけるカビといえば、黒カビではないでしょうか。浴室やキッチン、洗面所などの水場では、少し放っておくとすぐにこのカビがはえてきてしまいます。ただし、黒カビと呼ばれているカビにはいくつか種類があり、生物学的な分類では「クラドスポリウム属」に属するカビが当てはまります。
黒カビというのはあくまでも俗称で、他にも「クロカワカビ」などと呼ばれることもありますが、正式には前述の「クラドスポリウム属」が当てはまります。クラドスポリウム属は170種以上が存在し、代表的なものは「クラドスポリウム・クラドスポリオイデス」と「クラドスポリウム・スフェロスパーマム」の2種類です。黒カビは周囲の環境によって形を変えるため、一時期は500種類以上もに分類されていましたが、この形を変える性質が発見され、種類としては170種類程度とわかりました。
これら「クラドスポリウム属」のカビは、人間が生活している環境の中に普通に存在していて、空気中を漂っているカビ胞子の約2〜5割を占めるとされています。最も多く現れる水回りはもちろんのこと、穀類や果実、加工食品などのほか、皮革・繊維・包装材などを汚染することもあります。中にはアルミニウム合金を腐食させてしまうものもいて、ジェット燃料の中で増殖し、燃料タンクの底に穴を開けてしまうこともあります。
クラドスポリウム属がこのようにどこにでも存在する理由は、もともと土の中にいた「土壌菌」であることだと考えられます。家の外壁やエアコン・クーラーの吹出し口、洗濯槽の中など実にあらゆるところに現れ、決して不潔にしていたわけではなくても、湿気などの条件によってははえてきてしまうことがあります。
黒く見えやすいので黒カビと呼ばれていますが、より厳密に言えば深緑色であり、腐ったミカンにはえる緑色のカビも黒カビの仲間です。糸状の菌で胞子を作り、ぽこぽこと芽が出るように増えていきます。黒カビははえた場所に「根」をはってしまうことがやっかいで、根本的になくすことが非常に難しい菌です。そのため、日頃から予防対策をしておくことが重要です。
クラドスポリウムはどんなところにはえやすい?
前述のように、クラドスポリウムはもともと土壌中に多く存在します。そこから空気中に漂い、風に飛ばされて建物の中に入ってきます。空気中のカビの数は環境や建物によっても異なりますが、だいたい1㎥中に2〜100個で、その多くがクラドスポリウムと青カビ(ペニシリウム)です。クラドスポリウムの胞子は4〜8μmの大きさで、1m落下するのに約30分かかります。
クラドスポリウムはホコリの中にも存在していますが、ホコリの中は好乾性(湿度が比較的低くても成長できるカビ)が多いため、好湿性であるクラドスポリウムの割合は高くありません。また、世界各国に存在していますが、中でもアジア・ヨーロッパ・アメリカには特に多く存在しています。
クラドスポリウムが発生しやすくなる条件には、以下のようなものがあります。
- 温度が20〜30℃
- 湿度が70%以上
- 栄養分(ホコリやチリ、食べカスなど)が豊富
これらの条件が揃うほど発生しやすくなると考えられ、3つの条件がすべて揃うと爆発的に増殖していきます。また、黒カビの胞子は空気中に漂っていられることから風に乗って運ばれていきますので、屋内を移動していき、クラドスポリウムにとって栄養分のある場所に付着しては湿度が高くなるのを待って繁殖を繰り返していきます。このため、浴室や洗面所など、湿度が高くなりやすい場所でクラドスポリウムがよく見られるのです。
具体的に屋内でクラドスポリウムが発生しやすい場所としては、以下のような場所が挙げられます。
- 浴室
-
- 肉眼では見えないクラドスポリウムの胞子がたくさんあり、湿気がこもりやすく、温度もカビにとっての適温に保たれやすい
- 目に見える黒カビを清掃しても、目に見えない「根」や胞子が残っていることが多く、繰り返し発生しやすい
- 洗面所
-
- 浴室からの水蒸気が湿気となってこもりやすく、クラドスポリウムが発生しやすい
- 換気窓や換気扇がついていないと壁にクラドスポリウムがつきやすいため、注意が必要
- 壁
-
- 壁につくカビのほとんどがクラドスポリウム
- 室内はカビが繁殖しやすい温度であることが多く、キッチンで調理しているときの水蒸気やお風呂場からの湿気がこもりやすい
- このように条件が揃いやすいため、壁に汚れがついているとそこにクラドスポリウムが発生することが多い
- 古い建物の壁は特に汚れが多くついているので、クラドスポリウムが発生しやすいとされる
- 洗濯機
-
- 洗濯機の表面はキレイでも、洗濯槽の裏側にはクラドスポリウムがびっしりということも
- 洗濯槽にクラドスポリウムが発生すると、洗濯物からイヤなニオイがしたり、洗濯物を干すときに茶褐色や黒いカスがついたりすることがある
- 洗濯物の汚れと洗剤がくっついて洗剤カスが発生し、それがタンクや外周部につくと、カビが付着・増殖してしまう
- エアコン
-
- エアコンは室内の空気を吸い込み、設定温度に調節して吐き出す機械
- 空気と一緒にホコリなどの汚れ、カビの胞子も吸い込むため、少しずつ汚れが溜まる
- エアコン内部には結露が溜まることがあり、湿度は90%にもなるとされ、溜まった汚れと湿気がクラドスポリウムにとって適した環境になってしまう
このように、クラドスポリウムは湿気がこもりやすい場所や結露が発生してジメジメする場所、生活の中で水を使って頻繁に濡れる場所によく発生します。これらの場所を汚れたままで放置していると、すぐにクラドスポリウムの温床になってしまいます。クラドスポリウムは屋外の空気中でも頻繁に発見されることから、乾燥するとすぐに死滅するわけではなく、多少の乾燥状態でも生きられると考えられていますので、完全に取り除くことは難しいと言えます。
他にも、野菜・果実をはじめ、さまざまな食物にはえます。トマトやキュウリなどの水分が多い野菜はもちろん、カボチャや菓子類、ジュース、穀物など、長期間放置しているとなんにでもはえてしまいます。食材は長期間ほったらかしにせず消費期限に従い、できるだけ早く調理したり食べたりしてしまいましょう。
関連記事:畳のカビの掃除方法と予防方法とは?
クラドスポリウムは人体に害があるの?
クラドスポリウムは、いわゆるカビ毒を生産するカビではありませんので、その点で人体に害を及ぼすわけではありませんが、カビの胞子を大量に吸い込みすぎると喘息やアレルギーの原因になることがあります。特に室内でクラドスポリウムが多く検出された場合、室内の汚染源をできるだけ早くつきとめ、清掃・洗浄・除菌を行いましょう。
近年注目されているのが「夏型過敏性肺炎」で、エアコン内部にクラドスポリウムが発生し、気づかないまま冷房を使って室内に大量のクラドスポリウムの胞子が撒き散らされてしまい、発熱や咳・呼吸困難などを引き起こすものです。特に身体の免疫力・抵抗力が弱い子どもや高齢者が肺炎にかかると重症化しやすいため、注意しましょう。
クラドスポリウムが人に及ぼす影響は、具体的には「アレルギー」「真菌感染症」の2つです。それぞれ詳しく見ていきましょう。
関連記事:夏の肺炎を引き起こすトリコスポロンってどんなカビ?
クラドスポリウムが引き起こすカビアレルギーって?
クラドスポリウムが引き起こすカビアレルギーには、気管支喘息やアレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎、過敏性肺炎などがあります。特に、アトピー型喘息に関しては主要なアレルゲンであり、空気中に存在しているクラドスポリウムの胞子を大量に吸い込むことでアレルギーを発症します。
大量というのがどのくらいなのかについては解明されていない部分も多く、具体的にどれだけ吸い込めばアレルギーを発症するとは定義されていませんが、一般的な空気中に存在するカビの胞子が2〜100個/㎥であることを考えると、その約10倍の1000個/㎥を超えると多い、と考えられます。
具体的な環境としては、空気がいつも非常に汚い、生活の場所として長時間過ごす場所にカビがはえている、特定のカビが非常に多い環境である、ホコリが多く簡単に空気中に飛ぶなどが挙げられます。このような環境にならないため、クラドスポリウムを発生させないためには以下のような予防・除菌対策が効果的です。
- こまめな掃除
-
- 浴室や窓枠、キッチンなど発生しやすい場所はこまめに掃除する
- 浴室の天井は特に薄く広範囲に広がりやすいため、注意が必要
- 目視でクラドスポリウムが見つかるころには、既に天井に多くのカビが発生していることも
- 一見キレイに見えても、定期的に天井も掃除が必要
- 湿度コントロール
-
- 湿度が長時間80%以上にならないよう、換気したり除湿機を使ったりする
- 素早い除菌
クラドスポリウムが引き起こす真菌感染症って?
クラドスポリウムは基本的に真菌感染症を引き起こすカビではありませんが、「クラドスポリウム・カリオニイ」という一種類だけが「黒色真菌感染症(クロモミコーシス)」という真菌感染症を引き起こす可能性があります。皮膚が赤く盛り上がったり、カサカサしたり、しこりなどになったりするものですが、ごくまれに目や脳などに障害が及ぶこともあります。
日本ではこのクラドスポリウム・カリオニイによる黒色真菌感染症は報告されておらず、南米やアフリカ、中国などで多く報告されています。日本での黒色真菌のヒトへの感染は530例以上報告されていますが、主な原因真菌は「フォンセケア・ペドロソイ」などであり、クラドスポリウム属ではありません。
関連記事:ハウスダストにはどんな害がある?おすすめの対処法は?
おわりに:クラドスポリウムは湿気が大好き。水場に注意!
既によく知られているとおり、黒カビと思われる黒い点々がよく現れるのは、浴室やキッチン・洗面所などの水場です。これは、クラドスポリウムが湿気を好む性質を持っているためですが、水場以外でも壁やエアコン内部などにはえることがあります。
クラドスポリウムはカビ毒を作らないため、食中毒などを起こすわけではありませんが、カビの胞子を吸い込んだことによるアレルギーを起こすことはありますので、注意しましょう。
関連記事:酸性洗剤の種類一覧とおすすめの酸性洗剤 メリットと使い方のコツも紹介【場所別で編集部厳選】
コメント